明日は成人の日ですね。晴れ着姿の女性が街に溢れて、眺めているだけでも楽しい気分になる日です。
が、この成人式の振袖で。すっかり、「着物アレルギー」になってしまう人も少なくありません。成人の日に振袖を着て、「着物は苦しい」、「着物は大変」とツラい思い出になってしまうケースです。
けれど、それは誤解です。着物は苦しくないし、慣れてしまえばラクです。なのに、なぜ「苦しい」、「大変」と思ってしまうのか? といいますと、理由は成人の日の着付けにあります。
この日、着付けを行なう美容院では、時間との戦いで着付けとヘアのセットが行なわれます。着る人にとっても、生まれて初めてか、人生でも何度目かの着物姿となる日ですので、「自分の着付け」が分かりません。だから、着せられるがままになってしまいます。
実は、着付けには「こういう風に着付けましょう」という「着付け方」が存在します。が、それは、あくまでも一般論です。腰紐を締める位置や補正、帯をどのぐらいキツくしめてもOKか? などはかなり、個人差があるのです。
満腹のときと空腹のときに、ウエストサイズがかなり変わる人がいます。また、胃下垂気味だったりすると、満腹のときに苦しくなる位置が低かったりします。胃が正常な位置にある人ならば、満腹になるとアンダーバストのちょっと下、あたりが苦しくなる場所です。
自分で着物を着ている人は、このような「自分の体の傾向」を踏まえた着付けをしています。けれど、成人の日は、肉体の個人差に配慮することはほとんどありませんし、たとえ、配慮しようとしても、着物を着慣れていない人にとって、「自分はどの部分で腰紐を締めれば苦しくないのか?」も分かりません。
さらに、「着崩れないように」と考えると、腰紐や帯、帯締めはキツめに締めておく必要があります。心持ち、キツめにギュッと締める。これが、「苦しい」の原因のひとつ。
「苦しい」の原因の二つ目が「早朝からの着付けによる、朝食抜き」です。団塊ジュニア世代で人口が多かった私は、成人の日、朝5時30分から髪をアップにするために美容院に行きました(着付けは美容院から帰ってきて、友人のお母さんにしてもらいました)。朝食どころではありません。
私が20歳のときは、新成人の人数が多いため、いきつけの美容院では、成人の日はホテルの宴会場を借り切っての「アップ&着付けコーナー」が特設されました。今はなき、横浜プリンスホテルが会場だったのですが、ホテルまでのアクセスはシャトルバス(小高い丘の上のホテルでしたので)。しかし、成人の日の予約が早朝すぎてシャトルバスが走っていません。
やむを得ず、自分で車を運転してホテルへ行きました。そして、デコラティブにアップしたヘアスタイルにシャツ、ジーンズという、妙なスタイルで自宅に戻ったのですが…。車を駐車場にバックで入れようとしたら…。あれ? 髪のお飾りが車の天井につかえてバックできないじゃない!
「おとーさーん。車が駐車場に入れられないよー」
と、車庫入れは父に任せて、お次は着付けです。そこで、友人のお母さんは、おもむろに「食べなさい」とおにぎりを差し出しました。お腹が空いている状態で着物を着てしまうと食べられなくなるよ、という配慮からのおにぎりだったのです。
半強制的におにぎりを食べさせられてからの着付けだったわけですが、おにぎりと、「ここは苦しい?」と細かくチェックしてもらいながらの着付けのおかげで苦しい思いをすることもなく、振袖姿を楽しむことができたのでした。着物道へ足を踏み入れようと思えたのも、成人の日の着物がトラウマにならなかったおかげだと、友人のお母さんに大変、感謝しています。
「着物に憧れるけれど、成人式でもうコリゴリ」と思っている方へ。着物は苦しいものではありませんので、もう一度、袖を通してみませんか?