今日は着物歴17年間に遭遇したハプニング事例をもとに、「こんなとき、どうするの?」を書いてみたいと思います。
①着崩れた、帯がほどけた
出先で着崩れたことは一度もないのですが、ビギナー時代は「着崩れたらどうしよう?」とオドオドしておりました。帯がほどけたこともありませんが、トイレのドアのノブにお太鼓をひっかけてしまい、ビローンとなってしまったことが一度、ありました。
さて。着崩れや帯がビローンになったとき。
頼りになるのは、呉服屋さんです。着物でうろつくときは、「近くに駆け込める呉服店がある街を選ぶ」ということが重要です。そのほか、頼れるであろう場所は、百貨店(但し、呉服コーナーがあること)かシティホテルですね。「助けてください」とお願いしましょう。
前述した、「お太鼓ビローン」の場所はカフェだったのですが、店員さんに「ここを引っ張ってください」とサポートをお願いし、ビローンを修正しました。この店員さんは、着付けはまったくできない人でしたが、ちゃんとサポートしてくださいました。ドアのノブ(丸いノブではなく、棒状のノブ)は要注意です。
②草履の鼻緒が痛い
まず、痛い目に遭わないように、ためし履きをすることが重要です。新品のときに、半日ぐらい自宅でスリッパのように履いて足に慣らしておきましょう。このアドバイスをおろそかにしたうちの母は、披露宴列席中、痛い目に遭いました。
鼻緒ズレの場合、絆創膏をスレる部分に貼れば大丈夫ですが、「鼻緒がきつい」というときはお手上げです。が、ここで頼りになるのは「履物やさん」。とりあえず、駆け込んでみましょう。職人さんが常駐しているお店であれば、なんとかしてくれるでしょう。または、安価な履物を購入して履きかえるか、速攻で帰宅するしかありません。「鼻緒がきつい」という状況になるかどうかを見極めるためにも、自宅で半日履いてみることが大切なのです。
③急に雨が降ってきた
とりあえず、避難です。避難する場所として、可能であればホテルを選びましょう。なぜならば、タクシーがいつもいるからです。
タクシーもいない、と言う場合は、コンビニに避難。レインコートと傘を購入します。レインコートを着用し、傘をさす。犠牲になってもいいわ、という草履でしたらそのままで。そうでない場合は、思い切って脱いでしまいましょう。足袋は二度と履けない代物になりますが、犠牲を最小限にとどめることが重要です。
また、避難をするときは「着物の裾をまくる」ことも大事です。はしたない格好になりますが、着物にドロはねが付着するとやっかいです。長襦袢なら、まだ許せます。
④着物に食べこぼしなどの汚れをつけてしまった
水分をやさしくふき取ったら、あとは何もしてはいけません。そして、速攻で呉服屋さんか悉皆やさんにクリーニングを依頼します。汚したら一日でも早く、クリーニングに出すことです。
以前、披露宴会場で訪問着に食べこぼしちゃったお嬢さんが、お手洗いで一生懸命、水でぬらしたハンカチでシミをこすっておられるのに遭遇しました…。ワタクシ、めまいがしました。加賀友禅をお召しでした…。
着物姿の私に、救いの眼差しを向ける友禅のお嬢様。「もう、こすらないほうがいいですよ。明日にでも呉服店に電話をして、すぐにクリーニングに出してください。汚れの内容をお伝えくださいね」としかいえませんでした。何がいけなかったか? というと、濡らしたハンカチでこすったことです。汚れの状態をさらに悪化させてしまい、染み抜きを困難なものにしてしまったのです。
とはいえ。シミが取れない! ということになっても、着物にはさまざまな裏ワザがあります。たとえば、「シミの部分に絵を書いて隠しちゃう」とか。「シミが目立たないように全部、染め替えちゃう」とか。しかし、いずれもそれなりのお値段がかかります。
まあ、着ている限り、どんなに気をつけていても汚れます。ビギナー時代は「汚したらどうしよう?」と過敏に反応していましたが、いまや「そういうこともあるでしょう」ぐらいの気持ちになれました。
⑤クリーニング代とタクシー代
汚れたらクリーニングなわけですが、着物のクリーニング代は洋服と比べると高いです。高度な技術が必要であるからですが、一万円札がヒラヒラと飛んでゆくわ~ということは覚悟しなくてはなりません。
そこで、考えたいのが「クリーニング代とタクシー代、どっちが安いか?」という計算です。豪雨に見舞われて、着物が相当濡れてしまうと、お手入れにかかる費用も莫大になります。1~2万円ぐらいの距離でしたら、タクシーのほうがリーズナブルである可能性が大です。呉服屋さんとお話する機会がありましたら、「大雨で着物が濡れたらお手入れにいくらぐらいかかるか?」を聞いてみて、タクシー代と天秤にかけておきましょう。
⑥他人に着物を汚された場合
そのときは「たいしたことないだろう」と思っても、たいしたことになる場合が多いです。汚れの原因によっては、数万円のクリーニング代がかかることもあります。
その場では、「クリーニング代がいくらぐらいかかるか分かりません。呉服店に相談してからご連絡をしたいのですが、ご連絡先を教えてください」と連絡先の交換をしておきましょう。
<着物のときに近寄ってはいけない人たち>
①電車の中で化粧&飲食する人
10年ぐらい前までは、「着物を汚したら大変なことになる!」という知識を持っている人も多くいたように思います。けれど、ここ数年はそういう知識も日本人の中から消えているようで、電車の中で隣に座っているお嬢さんが、着物の私のお隣でマスカラを塗り始めることも珍しくありません。缶コーヒーのプルトップを空けてグビグビ飲み始めた男子もいましたね。しかも、「この先、電車、揺れます」のアナウンスがあるというのに、iPodで音楽聴いてるし!アナウンス、聞こえてないわ~と恐怖におののきました。
そういう人が近くにきたら、避難警報発令です。
着物のときはおばあさんの傍がいちばん、安らぎます。おばあさんは知っています。着物の汚れが高くつくことを。それに、マスカラ塗ったり、飲食したりしませんし。「おばあさん?」に見えても、団塊世代は知らない人がいますので、昭和一桁生まれぐらいまでのおばあさんの近くに行くことをオススメいたします。
⑦ベビーカーには近寄らない
ベビーカーのタイヤが触れると、着物が汚れる可能性があります。また、ベビーカーで足を轢かれると足袋と鼻緒がダメになります。足袋はともかく、鼻緒は交換すると1~2万円は軽くかかりますので、布製の鼻緒の草履を履いている日は要注意です。また、お子様に着物の裾をぎゅっと握られたりするのも怖いです。「さっき、おてて、しゃぶってたよね?」。あり得ません。
⑧リュックの人
「そのリュック、汚い地面に置いたでしょ?」なリュックを押し付けられると気絶しそうになります。学生の通学バックや、部活のバッグ(野球用具入ってるよ、みたいなバッグ)も恐怖です。
⑨泥酔してる人
言うまでもありません。何をしでかすか分かりません。
こうして書いてみると、いかに自分が日ごろから危機管理をしているかがわかります。「普段着ですのよ」と涼しい顔をして着物を着ていますが、実際にはSP並みの注意力で周囲を観察しているのでした。
まあ、17年着物着てますが、そうそう滅多なことは起きません。ただ、「万が一のときどうしよう?」を知っていると心穏やかになれますので、知識として覚えておいていただけるとよろしいかと思います!