先日、バスの中でお爺さんがお婆さんを口説いていました。そのお爺さんはどうやら奥さんに先立たれ、一人暮らしのご様子。席で隣り合ったお婆さんに、「男の一人暮らしはいかに大変か」を語ります。「そうじもね、洗濯もね、全部しなくちゃいけないんですよ」、「食事が、どうしても味付けの濃いものになってしまうんですね」などなど。「はあ」と曖昧な返事をするお婆さん。遠回りを装いながらかなり直球で「後添えがほしい」とアピールしているわけですが、そのアピールの仕方がてんでダメ。
爺「繕い物はね、私、こう見えても得意なんですよ。ボタンつけとかね、昔、軍隊でやりましたから」
婆「そうですか」
爺「ただね、食事とそうじがね。どうもね、苦手なんですよ」
婆「そうですか」
爺「やっぱりね、女手がないとね。そういうことはね」
婆「はあ」
私は『お爺さん、そんな家政婦求むみたいなアピールではいけません。だったら、家政婦を雇えばいいんです。身の回りの世話をしてほしいから再婚しようぜ、としか聞こえません。そんなんじゃ、ダメです!』と心の中で念じたのですが、爺さんお構いなし。挙句の果てに、バスのシルバーパスにいくら払っているか? でお婆さんのほうがお金持ちだという事実まで発覚し、爺さんの婚活は不毛に終わりました。
路線バスの中で、なりふり構わず婚活に励む様子はお見事でしたが……。その数日後、ワタクシ、再び、その婚活爺さんに遭遇。べつのお婆さんに同じようなアプローチを繰り広げていて、思わず笑ってしまったのでした。
なぜならば、そのお爺さんが狙う相手は美しいお婆さんだという傾向を発見してしまったのです。そういうお婆さんは娘時代からさぞかしモテたことでしょうから、バスの中で爺さんに言い寄られたところでビクともしません。適当にあしらう方法も心得ていて、勉強になります。
婆2「では、ごきげんよう」
と、お婆さんがエレガントにバスを降りて、その日の爺さんの婚活は終わったのでした。