叔母から譲り受けた着物を、洗い張りしました。
洗い張りとは、縫い目をすべてほどいて洗ってから、仕立て直すお手入れ方法のこと。
この着物は、じつは微妙に寸法が合わなかったので、この機会に寸法も直すことにしたのです。
洗う機会。つまり、決定的に汚れる出来事があった、ということ。
この着物を着ての帰宅途中、電車に座っておりましたところ。途中から缶ココアを手に持ったおじさまが乗車されたのです。
『デンジャラスパーソンだわっ』と、もちろん、わたくし、警戒警報を脳内に発令しました。
しかし、次の瞬間!
あろうことか。おじさま、缶ココアを車内で落としたんですの!!
もちろん、こぼれまくりよ~~~~!
で、飛沫がですね。私の着物にも飛びました。車内の人たちは『よりによって、着物の人がいるときに、オッサンやらかしたな~』という目線で、おじさまとわたくしをご覧になっていました。
あまりの視線集中ぶりに、心とは裏腹にいい人ぶってしまいました。
『たいしたこと、ありませんわよ』
余裕の微笑みを浮かべてしまったわたくし。
オッサン、わたくしと目を合わせることなく、汚しっぱなしで隣の車両に移動。
見るに見かねた女性が、ポケットティッシュを取り出して、床にこぼれたココアを拭いておられました。
が、わたくしは頭の中でソロバンの玉がパチパチパチとはじけまくる音しか聞こえません。
『ああ……。思いがけない支出が~~~』
タクシーに乗ればよかった。タクシー代のほうが、絶対に安いと後悔しても時すでに遅し。
危険な時間帯は、電車に乗るまいと決心したのでした。