3年前の7月19日。2歳半だった風太が、私のところにやってきました。
風太は、いわゆる里子です。里親を探していた方が、はるばる岐阜から東京まで、車で風太を連れてきてくれたのです。
風太は我家でのはじめての日から、ゴハンとトイレはしっかり済ませたけれど、それ以外の時間は岐阜から持ってきたベッドに入ったまま、出てきませんでした。そして、夜になっても眠ろうとせず、日付が変わる頃、一度だけ、遠吠えをしました。風太の遠吠えを聞いたのは、あのとき、ただ、一度だけです。
「ふうちゃん。今日から私がお母さんになるんだよ。知らないお家に連れてこられて、知らない人がお母さんになるって言われて、どうしていいか分からないだろうけど、これから一緒に暮らしていこうね」
眠らない風太のそばで、一晩中、思いつく限りのことを話していました。夜が明ける頃、風太はようやく目を閉じて、ほんの少しだけ私たちは眠りました。
風太が岐阜でお世話になっていた方が、私のところに来るときに新しく買って持たせてくれた、ハロッズのぬいぐるみです。新品だったぬいぐるみは、この3年間でこんな姿になってしまいました。何度か、”手術”もしました。ボロボロになっても、風太は今も、この”ハロッズ君”が大好きです。
東京で風太が出会い、好きになった人たちが遊びに来てくれると、”ハロッズ君”をくわえて、「遊んで」と持ってゆきます。だから、こんなにボロボロになってしまったのです。
風太との思い出を振り返ると、「3年しか経ってないんだ」と感じます。ずっと、一緒に暮らしてきたような感じがします。
でも、風太が来てから約半年間の思い出は、よく覚えていないのです。写真もほとんどありません。振り返ると、あの半年間、私も風太も余裕のない日々を過ごしていたのだと思います。
今年の7月19日に、「今日で丸3年だ」と気付いた途端、なんだか、泣けてきました。
はじめて会った日のことを思い出すと、もう、二度と、あんな思いはしたくない。道行く人の中に、自分が知っている人がいないかと、キョロキョロと必死に見回していた風太の顔が、数少ない記憶の中で、どうしても忘れられません。この3年間、楽しいこともたくさんあったけれど、楽しい記憶がどれだけ増えても、上書きして消してしまえない悲しい記憶があるものなのですね。
風太のおかげで、私も友達がたくさんできました。毎日が格段に楽しくなりました。私のところに風太がやってきたことは、運命だったのだと思います。
7月19日を迎えて、の、番外編でした。