こんばんは。栗原貴子です。
「筆一本で食べているって、すごいよね」
とは、以前、20年ぶりぐらいにお会いした
中学時代の担任の先生からかけられたお言葉です。
「はい、私も奇跡的だと思います。ありがたいです」
と答えたものでした。
その思いは今も変わらずで、
よく、続けることができているな、と思います。
ありがたいことですね。
中学時代の先生の担当教科は国語でいらしたので、
「筆で身を立てる」ということに
あこがれたこともあったなあ、と笑いながらおっしゃっていました。
私がこの道に入ったころ、今から18年ほど前に
当時、会社員とライターの二足の草鞋を履いていた私を
見習いとして使ってくださり、いろいろと教えてくださった編集者さんに、
「うちの雑誌の原稿料はページ単価で△円、大手だからよいほうだと思う。
でも、この値段、30年前からさほど変わってないの。
そういう業界だけど、頑張っていこうと思えるかどうか、考えてね」
と言われました。
あれから、18年ほどの歳月が経ちましたが、
原稿料のベースは変わっておらず、
つまり、
もはや半世紀近くも前からさほど変わっていないということか?と
思うのですが、ほんとのところはどうなのでしょうか?
インターネットの普及により、このごろは
コンテンツマーケティングと呼ばれるジャンルに多いと思うのですが、
1文字1円とか、
1記事500円とか、
「お母さんのお手伝いをして、お小遣いをもらったほうが
はるかに稼げるのでは?」という金額のライティング仕事が
巷に溢れておりますね。
ちなみに、私がこの手の仕事をした場合、
東京都の最低賃金である時給907円を下回ってしまうので
このような業界とはかかわっていないのですが……。
はっきりいって、これはプロ扱いされていない金額です。
1文字1円とか、1記事500円とかいうお仕事は取材なしで
資料をあたって書いてくださいませ、的なものなのでしょうが、
内容にもよりますが、それでも数時間、かかります。
「筆一本で食べられるライターになるための下積みとしてやっている」
という方もいらっしゃると思うのだけど、
はっきり言って、それだけで道が開けることはないでしょう。
なぜなら、ライターには
取材力やコミュニケーション能力が欠かせないし、
それらは、場数を踏んで体得していくものでもあるから。
読者の役に立つ情報かな?
と自分の意見をワキにおいて、中立的な立場で考えるトレーニングも必要だし、
ひきこもごもの「大人の事情」というフィルターにかける必要もあるのです。
それって、ハウツーを学べばできる、ってわけでもなく。
現場を経験して、ドジッたり、冷や汗かいたりしながら、
誰かに教わったり、ときに叱られたりして、
眠い目をこすりながら原稿を書きなおして、
できるようになってくるもの、なのですね。
そうやって頑張れたのは、「30年前から大して変わっていない」とはいえ、
書き手が最低限、暮らしていけるようにという、お気遣いのある
原稿料をいただけたからだと思うのです。
この編集者さんは、私がちゃんと食事ができているかどうかも気にしてくださり、
打ち合わせを意図的に食事時にして、
「ごはん、食べよう」とごちそうしていただいたことも度々でした。
原稿を書くために、私たちライターが費やす時間には、
取材と原稿執筆だけではなくて、
関連事項を調べたり、事前に資料を読んだりする時間も含まれています。
筆が速い、遅いには個人差があるし、
資料を読み込む速度も個人差があるけれど、
そういう時間を考えたら、
1文字1円とか、1記事500円なんて数字がどれだけ割に合わないかは
火を見るよりも明らかです。
なのに、労働基準法の適応外であるために、
確実に最低賃金を下回る価格で仕事を発注するというのは
実は、大問題です。
隠れブラック企業、といってもいいでしょう。
「そういう仕事でもいいから、やりたい」という方は、
働きたいけれど、外には出られない、といった
諸事情があるのだろうな、とも思います。
でも、ちょっと立ち止まって考えてみてほしい。
原稿に追われて、肩が凝ったとしても、
マッサージに一回行ったら、大赤字になるでしょ、その仕事。
締め切りだ~~って、食事の支度がままならなくて、
外食やデリバリー頼んだら、いっきに吹っ飛ぶでしょ。
知見を広げるために、本を読みたい、映画を見たいってことも
叶わない、その金額じゃ。
何より、その先に、雑誌とか広告物とか、
書籍などで仕事ができるようになる道は絶対に開けない。
1文字1円、1記事500円の仕事を「過去の経験です」って
出版社や広告代理店や、制作会社にもって行っても、
実績としては認められないから。
そういう現実を、知っていながら黙っているのも、
罪深いことよ、と思って、
今日は、こんな記事を書いてみました。
では、どういう道があるのよっ、って思った方も多いことでしょう。
それは、その人、それぞれです。
そこを探して、行動して、というところもまた、
しっかりチェックされるから。
ただ、ちゃんとした報酬がいただける仕事かどうか、
原稿のために費やした時間を合算して、
最低賃金を下回らないかどうか、
ということを条件として探したほうがいい。
本音のところでは、こうした安い仕事を請け負う人がいると
業界の相場が崩れるので、やめてほしいというのもあります。
でも、それ以上に
夢を持っている人が、未来が開けない仕事をして
疲弊して諦めてしまうのが嫌なのでした。